「ライダースジャケットを着て格好つけてバイクに乗ってみたい」バイク乗りであれば誰しもそう思ったことがあるのではないだろうか。
防風性能や強度に優れたレザーはバイクの乗車に適しており、基本的なデザインは古いものの、運動性に配慮した短めの着丈やポケットの配置などの様々な要素が当時なりに機能的につくり込まれている。特に、クラシカルな欧州車やクルーザー、国産空冷四発などとの相性は抜群で、バイクに乗ることの非日常性を演出してくれるアイテムとも言えるのではないだろうか。
(カドヤさんの通販ページより引用)
しかしながら、根っこがインドア気質の僕にとって、ライダースジャケットは少々男らしすぎるのだ。シンプルさを突き詰めたような潔いシングル、大きな二枚重ねの襟や斜めに配されたジッパーでハードに見せるダブル。誰もが目にしたことのある定番のデザインであるものの、定番であるがゆえに、人を選んでしまうように感じられる。
そんな折、カドヤさんの公式サイトでこの写真を見かけた。
KADOYAさんのATLASというジャケットである。セミダブルを下敷きにした新しいデザインのジャケットらしい。セミダブルというのは聞き慣れないが、前面はダブル同様に二枚重ねであるものの、襟元はシングルのようなつくりとなっているものを指すようだ。
写真のようにブラック以外のカラーバリエーションを展開しているのも特徴で、シーズン限定ではあるようだがグリーン、グレー、ネイビーなどがリリースされている。カラーレザーでもキワモノに見えないのは、定番から少しハズしたデザインのおかげに違いない。
僕の乗っているバイクは、90年代のスポーツバイクのデザインなので、オールドルックなライダースとは少々相性がチグハグな気がするものの、このジャケットならきっとマッチするに違いない。そうやって、調べているうちにどうしても欲しくなってしまい、その月の残業代を握りしめてカドヤ名古屋店に駆け込んだ。
気合の入ったモヒカンの店員さんの意外にも謙虚で丁寧な説明に面喰らいつつ、在庫していたネイビーのATLASを試着してみると、格好良さもさる事ながら、軽くしなやかで強いゴートスキン(山羊革)による着心地の良さに驚く。ゴートスキンは表面のシボ(細かな皺)が満遍なくしっかりと入っているのも特徴のようで、実物を見てみると、ライダースジャケットに抱いていたバキッとした鎧のような印象とは異なり、柔らかな立体感を感じる。
アパレルメーカーのジャケットのような格好良さだが、肩・肘・背中にプロテクターが入る作りになっているのも、バイク乗りにとってはありがたい。
購入後、バイクに乗るときはもちろんのこと、格好良いので普段着としても着用している。ゴートスキンは経年変化が出にくいようだが、腕周りにシワが入りいい雰囲気である。
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ATLASと出会って以降、カドヤさんのサイトやカタログをよくチェックしているのだが、気になっていたこの製品を最近新たに購入した。
レザースニーカーである。バイクに乗るときは基本的にクシタニのガルドシューズⅣを履いているのだが、あんまりバイク用っぽくないものが一足ほしくなり購入に至った。
履くとこんな感じ。
プロテクターこそ入っていないものの、つま先とかかとには当て革が取り付けられていたり、シャフトと呼ばれる筒の部分の傾斜により足首の運動性を確保していたりと、バイク乗車時の使用に配慮したつくりとなっている。エンジニアブーツほどこってりせず、かといって他社のライディングスニーカーほど街っぽくない。さきほどのATLASと同様に、僕が求める隙間を埋めてくれるようなスニーカーなのだ。
また、このスニーカーの特筆すべき特徴の一つとして、ソールの取り付けにオパンケ製法を採用しているという点が挙げられる。オパンケ製法、なんだか卑猥な部位の体毛のような名称であるが、なんとスニーカーなのにソール交換が可能なのだそうだ。メーカーの公式ページにも交換が可能であることがうたわれており、足に馴染んで愛着の沸いた靴を長く使えるのは嬉しいポイントだ。
とはいえ、バイクの乗車時に使用するとなると、プロテクションがもう少し欲しいと感じるのも事実である。そこでアンクルプロテクターなるものをamazonで購入した。
生地自体はスポーツ系のアンダーウェアっぽい感じで伸縮性があり、くるぶしと足首の前方にゴムっぽいソフトプロテクターが縫い付けられている。着用してみるとこのような感じになる。
(僕の濃いオパンケが丸見えになってしまったがどうか許してほしい。)
プロテクターとしては少々心許ない感じもするが、ハイカットのスニーカーの下に装着するにはこれくらいが限度だろう。ソフトプロテクターなので、擦れて痛くなるということもなさそうである。ビジュアル的にはくるぶしのプロテクターがコナン君のキック力増強シューズを彷彿とさせる感じでメカニカルでなかなかいい具合だ。
全体的なフォルムとしては、野球のストッキングと同じような形状となっている。中学生のころに野球部に所属していた僕にとって、とても見慣れた形である。あの謎のストッキングはやたら硬くて伸縮性が低い生地が用いられていたため、着用が面倒だったことを思い出すが、そもそも野球ではなぜあの謎のストッキングを履かなければならなかったのだろうか。なんとなく履き続けたまま卒業をむかえてしまった。
「わくわくしちまうんだよ!わからなければわからねーほどうずくんだ!オレの中のおさえきれねー好奇心がな!!」*1僕の左足に宿ったコナン君がそう叫んだ気がした。ということで、高校球児だったという職場の岡谷先輩に事情聴取をおこなうことにした。
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◆理由その①スパイクからの足の保護
岡谷先輩いわく、そもそもソックスの上に重ねて謎のストッキングを履く理由は「足の保護」であるそうだ。野球では走塁において選手がスライディングでベースに滑り込んでくる。そんな時に、走塁をしている選手、ベースを守っている選手、その双方の足を怪我から保護してくれるのだそうだ。
◆理由その②肉離れの防止
また、野球のプレーの特徴として走塁や守備においてストップアンドゴーの多いことが挙げられる。岡谷先輩によれば、硬い生地のストッキングは肉離れを防ぐ役割をも担っているというではないか。硬く伸縮性の低い生地にそんな秘密が潜んでいたとは、思いもよらなかった。
◆理由その③ソックスとの役割分担
ストッキングの独特の形状について聞いてみると、まず前提として、ソックスで吸湿をおこない、ストッキングで保護をするという役割分担をするために二枚重ねになっているそうだ。そして、二枚を単純に重ねてしまうと足回りの動きを阻害してしまうため、運動性を確保するためにあのような形状になっているとのことである。
バイクウェアもそうであるが、ギア(装備)としてデザインされたモノの材料や形には実用のためのちゃんとした理由が隠されているということを改めて実感させられた。
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僕の所属する野球部に木村君という気のいいやつがいた。木村君は中二の冬に足を怪我してしまい、激しいプレーをすることができなくなってしまったのだが、そのまま野球部に残り、チームのためにマネージャー業を買って出てくれていた。
あれは中三の春のことだった。なんと木村君がケータイを買ってもらったというのだ。これは当時の田舎の中学生にはとんでもないニュースである。ケータイが珍しかった僕を含めた野球部の面々は、木村君のケータイを触りたがったものである。しかしながら、どういうわけか木村君は頑なにケータイを渡してくれなかった。
「あいつ何か隠してるぞ」僕らは木村君の謎を解き明かそうと躍起になった。木村君がトイレに入っているスキをついたり、練習中にトイレに行くふりをして、部室の木村君のカバンからケータイを見つけ出そうとした。謎解きというよりほとんど強行突破である。
だけど、なんと木村君はケータイをユニフォームのポケットに入れて練習中に臨んでいた。いくらカバンを探っても無駄だったのだ。ちなみにこれは練習試合の最中にサード側のコーチャーボックスにいた木村君のポケットから着メロが鳴った際に判明したことである。「守りの硬い木村らしいな。」主将を務めていた寺西がそう評するほどに、木村君のケータイを触ることは難しかった。
鉄壁の防御を前にして、半ばあきらめかけていたある日、なんと木村君が部室に携帯を忘れて帰るという事件が発生した。待ちに待ったチャンスがやってきたのだ。
ベンチに置きざりにされた木村君のケータイをひらくと案の定パスコードロックがかかっている。だけど、相手チームのサインを盗む技術に定評のあったキャッチャーの安田によって、木村君の指の動きから既にパスコード4869は僕たちに割れている。
ロックを解除し、当初より怪しいと踏んでいた画像フォルダに潜っていく。
そこには大量の歩美ちゃん*2のエロ画像が保存されていた。まだオパンケも生えそろっていない裸体の歩美ちゃんが血管の浮き出たバットでグチャグチャにされていた。僕たちは「おいおい、木村マジかよ」「ロリコンじゃねえかぁ」と携帯を回しながら、腹を抱えて大声で笑った。安田は「おれは哀ちゃん派*3だね」と言っていた。
しばらく時間が経って、僕たちは見てはいけないものを見てしまったことに気が付いた。謎を解き明かしたはずなのに、汗臭い部室には後味の悪さと安田の笑い声だけが残っていた。
真実はいつもひとつだ。だけど、解き明かす必要のない真実だってあるはずだ。いつもチームのために働いてくれる木村君。彼が隠そうとしていたことを、僕らは非道な手を使って暴いてしまった。「このことはおれたちの心の中にしまっておこう」誰かがそう言った。誰が言ったかは定かではないが、安田でなかったことだけは揺るぎのない真実だった。