残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

The Ochinchin of September

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今年も早いもので、あっという間に夏が終わり、バイクシーズンが始まろうとしていた。僕のバイクは9月が車検なので、ツーリング云々の前に、まずはそちらを済ませなければなるまい。

そんなわけで、少し前に車検のためにいつものバイク屋さんにバイク預けていたのだが、車検が無事に終わったようなので、この日は引き取りに出掛けた。

車検ついでのオイル・フルード交換とともに、今回はタイヤ交換をお願いしていた。カウルにミシュランのステッカーを貼っているためミシュラン縛りで探したところ、車両が古いこともあり、指定サイズに適合するものがかなり少なくなってきているようだ。メーカー指定のサイズから変えたくなかったので、これまでも履いていたpilot power 2CTをリピートすることにした。2006年から販売され続けているスポーツラジアル界のシーラカンスである。

見慣れたパターンも新品だと何故だか格好良く見えてくる。なんだか気分が良いので、車両を引き取ったその足で、少しばかり岐阜方面を走ってみる。曲がりやすくなったりしないかなんて少し期待してたけど、リピートなので良くも悪くも違いは感じない。

ひとしきり走った帰り道の途中、洗車用の洗剤が切らしていたことを思い出し、ライコランド小牧店に寄り道していくことにした。

お店に入ると、なんとマルク・マルケスのレザースーツが展示されていた。白地に橙のレプソルカラーがやっぱりカッコいい。

そういえば、ライコランド小牧店では数ヶ月前に中上選手のトークイベントを実施してくれたりもしていた。もちろん僕も参加して、中上選手と写真を撮らせてもらった。

今年はコロナ禍前の2019年以来、3年ぶりに鈴鹿8耐が開催されたが、同じく3年ぶりにMotoGP日本GPが栃木にあるモビリティリゾートもてぎで開催される。残念ながら9月末は仕事が立て込んでいるため、遠い栃木まで行くことはできない見込みだ。

現地まで行けなくとも応援はしたいものである。ここはひとつ、日本人ライダー達が活躍するよう神頼みでもしておくというのはどうだろうか。

ちょっと前に8耐のホンダ優勝祈願にライコランドの近くの間々観音というおっぱいを崇める狂ったお寺を訪れたが・・・

今回はせっかくなので、別のパワースポットを探してみることにする。僕がいつでもおっぱいを求めていると思ったら大間違いである。

前回は寺なので今回は神社にしようと、GoogleMapで近場の神社を調べてみると、間々観音と逆方向にある「田縣神社」という場所がヒットした。堅実そうな名前で好印象だ。夕方も近づいており、あまり迷っている時間もないため、田縣神社に行ってみることにした。

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さて、あっという間に到着である。ライコランドから5分程度の距離感。大きな鳥居が目印で簡単に見つけることができた。駐車場もかなり広く、結構有名な神社のようだ。鳥居をくぐると見えてくる拝殿もかなり荘厳な建物で、ご利益がありそうな気配をひしひしと感じる。やっぱ神社はこうでなくちゃね。

チンコである。なるほどね。AV風に言えばおちんちんだ。

この神社、木彫りのチンコやチンコっぽい石が至る所に祀ってある。奥宮に飾ってあるやつなんかはカリの部分の作り込みがかなりリアルである。

一体全体なんでこんなことになっちゃったのだろうか。由緒が書かれた看板を読んでみると「母なる大地は、父なる天の恵みにより受胎する」という思想に由来し、なんやかんやでチンコのオブジェを飾っているそうだ。なるほどね。全く頭に入ってこない。

愛知県に住みながら全く認知していなかったのだが、毎年春の豊年祭(木彫りの巨大チンコを神輿で担いで町を練り歩く奇祭)はこの辺ではかなり有名な行事らしい。この日も地元の人たちが結構参拝に来ていて、長く地域の人々から崇敬されてきたであろうことが窺い知ることができる。

とにかく、ありがたい神社であることが分かったので、心を落ち着かせて祈りを捧げよう。お賽銭を入れ、チンコに向かって二礼二拍手一礼をする。

MotoGP日本GPで、日本人ライダーが活躍できますように。あと、何かチンコが気持ち良くなる様な出来事が起こりますように。」

チンコ繋がりで、子孫繁栄や、縁結び、夫婦円満といったご利益もあるらしいので、僕もチンコ繋がりで世界中の夫婦達の幸せを願って、邪な願いを中和しておくことにしよう。

「世界中の夫婦が、どうか幸せでありますように。」

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さて、9月後半になりMotoGP日本グランプリがはじまった。かねてから懸念していた通り、仕事が忙しいものの、土曜日の夕方には週末の目標分がなんとか達成できそうな見込みだ。

ひょっとして土曜の仕事終わりから車を走らせれば、なんとか日曜日の決勝を現地観戦できるんじゃないだろうか。

そんな思いつきの勢いで金曜日に指定席券と駐車券をファミリーマートで購入し、土曜日の仕事も順調に進んだため、急ではあったものの、はじめてのMotoGPを観に行くことにした。

今回僕を夜中の魔境栃木まで連れて行ってくれるのはバイクではなく、こちら。

FIATのチンコ、もといチンクエチェントである。かれこれ5年近く乗っている。写真は今年の正月に弟とドライブに行った時のものだ。

キュートな見た目とターボ付き二気筒という現行車らしからぬエンジンに惹かれて買った、僕にとって初めての車である。

見た目も中身もほとんどノーマルなんだけど、半年ほど前にV-UP16という点火系のチューニングパーツを付けてもらった。鈍感な僕ではっきりと感じられるほどチンコのトルクが太くなり、とっても気持ちいい。あ、チンクであった。失礼。

夜に長い距離を走るのは危ないし、睡眠時間を確保するために駐車場で車中泊をしたいので、今回は車で移動することにしたわけである。土曜日はなんとか18時半には出発したのだが、やはり栃木はなかなかに遠く、モビリティリゾートもてぎに到着する頃には夜中の1時を超えていた。

予定通りチンクで車中泊して翌日の決勝に備える。最近の四角い軽自動車よりも内部空間が狭いため、成人男性が横になるにはかなり無理があったものの、運転の疲れもあったのか、それなりにぐっすり眠ることができた。

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明けて決勝日当日は前日までの不安定な天候が嘘だったかのような快晴。僕以外にも全国各地から集まったモータースポーツファンでご覧の通りサーキットは大賑わいである。

V席というホームストレートから1コーナーまでのコース目前に設営される仮設スタンドの指定席のうち、もっとも1コーナーよりのV1席を購入したのだが、ストレート終わりのブレーキングからのコーナリングでのオーバーテイクが見られる最高の席であった。


ブースを見てまわったり、食事をしたりしているうちに250ccクラスのMoto3決勝が始まった。

Moto3の時点でかなりの迫力で驚く。今シーズン好調の佐々木選手がトップ集団での争いを見せて、見事に3位表彰台を獲得。素晴らしい。

中排気量クラスのMoto2は年間ランキング2位の小椋藍選手がなんといっても注目である。前日の雨の中での予選はイマイチ振るわなかったものの、見事にスタートを決めてじわじわと順位を上げ、なんとそのままトップでチェッカーを受けてしまった。会場も僕も大盛り上がりである。

佐々木選手も小椋選手も僕よりもずいぶんと若いのに、こういった勝負の世界に日常を置いている。想像するだけでも恐ろしいことだ。

そして、ついに始まった大トリのMotoGPクラスは圧巻の迫力。各国を代表するスター選手達がワークスマシンに乗って走っているのを見られるだけでも大満足であるが、その中でも優勝したジャックミラーは圧倒的に速くて、その走りに見惚れてしまった。表彰式で見せたキャラクターもサービス精神旺盛で明るく、この一日で一気にファンになってしまった。

日本勢はフル参戦中の中上選手、ワイルドカードの長島選手、津田選手の3名が参戦していたが、残念ながらかなり残酷な結果となってしまったと言わざるを得ない。長島選手と津田選手は途中リタイア、怪我を負っての中上選手はなんとか完走したもののノーポイントとなり、レースの世界の厳しさをまざまざと見せられた。

それでも、はじめて生で見たMotoGPは大満足の内容であった。来年も是非また来たいものである。

余韻にじっくり浸りたいところであるが、残念ながら明日は仕事である。興奮冷めやらぬまま、熱狂するサーキットを後にして帰路につくことにした。

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連休最終日の夕刻ということもあり、帰り道は大渋滞。何度も渋滞に巻き込まれながらもなんとか足柄サービスエリアにたどり着き、夕食を取ることにした。僕の他にもMotoGPを観に行った帰りであろう、ロッシやマルケスのTシャツを来た人たちがチラホラ休憩している。

ふとiPhoneに目をやると、運転中に珍しく弟から着信が入っていたようだ。気が付かなかったためか、LINEメッセージも来ていた。

なんと、僕がMotoGPに夢中になっている間に弟が婚約していた。一緒に送られてきた写真の中の弟とその彼女は満面の笑みで婚姻届を持っている。スターティンググリッドは僕の方が前だったのに、華麗にオーバーテイクを決められてしまったわけである。

人生はレースと似ている。才能や努力、運、それらをトータルした実力が、残酷なほどに見せつけられる。時には理不尽なこともある。逃げ出したくなることもあるだろう。

それでもレースは続いていく。君が何度も挫折したことも、周りに取り残されそうになったことも、僕は知っている。それでも立ち上がってレースに復帰した君なら、繊細で優しいお前なら、きっと大丈夫。素敵な家族を持つことができるはずだ。

「世界中の夫婦が、どうか幸せでありますように。」

そんな祈りをもう一度捧げながら、チンコ、もとい、おチンクエチェントに乗って、どこまでも続いていきそうなハイウェイを、いつもより少しゆっくりと走り出した。