残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

レンタル819でKATANAとDUCATIをレンタルした話

所有しているバイクがカスタムやメンテナンス、車検等で入庫しているとき、バイクに乗りたい欲求を、どのように消化しているだろうか。

現在、カスタムをお願いしていてバイクが手元にない僕は、せっかく休みを取れてもバイクに乗れず、なんだか不完全燃焼である。代わりに車でドライブしたりしてみるものの、日々のストレスを発散するには少々刺激が足りない。

そんな折、ホンダが2019年からレンタルバイクのサービスの提供始めたという情報をネットで見かけた。「レンタルなんもしない人」なんてのが登場する時代だ。ホンダがレンタルバイクを始めてもなんの不思議もないどころか、これまでなかったことが逆に不思議なくらいである。

レンタルバイクもいいかもしれない、と思いレンタルバイクについて調べていると、免責などが充実している「レンタル819」というサービスを見つけた。店舗数も多い上、車両もバリエーションに富んでいる。

転かす等の車にはないリスクが多いせいか、レンタカーと比べてコストがかかるが、気になる車両に1日乗れるのは大きい。最寄りの名駅店でも、良さそうな車両がたくさんあったので、早速利用してみることにした。

借りたいマシンのスケジュールを確認すると、△(要電話確認)となっていたので、案内に従って電話をかけ、すんなりと予約をとることができた。はじめてだと伝えると、電話も丁寧に対応してくれたので、安心して予約手続きを進められた。

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レンタル当日を迎え、開店時間と同時にレンタル819名駅店を訪ねた。手続きを済ませて車両を確認する。以下の動画を見ておくと、店頭での説明をいくらか省略してもらえるので、少し長いが見ておくことを推奨する。

youtu.be

さて、僕がこの日レンタルしたのはタイトルにもあるこのバイクだ。

SUZUKIの新型KATANAである。説明するまでもないと思うが、かつてハンスムート率いるターゲットデザインがデザインを担当したGSX1100X KATANAの意匠を現代的に再解釈して登場したマシンである。

レンタル819 のページを眺めていたら、ラインナップに並んでいたため迷わずこいつを選んだわけである。昔のKATANAのデザインは大好きだし、新型がデビューする時にもネットニュースで何度も目にして、注目していた車両である。

かつてのロー&ロングなスタイリングは今っぽいマッシブなデザインに変化しているが、新しさの中に、確実にKATANAの潮流を感じることができるから不思議なものだ。

リバイバルではあるものの、元々が前衛的なスタイリングだったため、今流行りのネオレトロとも少し異なる位置づけになるように思う。なんというか、KATANAという一つのジャンルを築いていると言えるかもしれない。

もちろん見た目のアップデートだけでなく、性能面も最新の車両としてアップデートされている。GSX-S1000ベースのエンジンは、なんと148PSを叩き出すという。この数字は僕の所有するMOTO GUZZI 1100Sportの1.5倍以上であり、僕にとってまったく未知の領域である。

さて、そんなスペックに緊張しながらマシンに跨ってみると、ポジションはめちゃくちゃ楽チンである。結構なアップハンドルなので、いわゆるネイキッドやストファイ的なポジションである。腕から足まで、違和感を感じる部分がないので、よく吟味されているのだと思う。姿勢に関しては、長時間のライディングにもまったく問題ないだろう。身長173cmで両足もちゃんと付く感じだ。

走り出してみると、下からトルクモリモリである。リッタークラスの4発に乗るのは初めてだったので、正直かなり驚いた。ニヤニヤが止まらないあの感じだ。

友人と合流し、道の駅を巡りつつ徳山湖六社神社跡宮展望台を目指す。道中はなかなかのワインディングであったが、モリモリトルクとぶっといタイヤのKATANAのおかげで不安なく走ることができた。スタイリング的には独自の世界を持っているが、乗り味はベースのGSX-S1000に同じくストファイ的な位置づけになるかと思う。

KATANAの唯一無二のスタイリングに惚れた方にはもちろんのこと、ガシガシとスポーツライディングを楽しみたい人にも訴求するバイクなのではないだろうか。

いやはや、レンタルバイクもなかなか良いものである。僕のように一昔前のバイクに乗っていると、最新のバイク界隈のニュースに置いてかれてる感じがすることがある。そんな僕でも、レンタルバイクを利用して気になるマシンや注目機種の性能を1日じっくり味わうことで、最新のバイクの潮流を体感することができるのだ。また、愛車と異なるバイクに乗るということは、愛車を客観的に見つめ直すよい機会ともなる。これは決して浮気ではない。

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レンタルといえば、大学時代のある先輩を思い出す。年上ながら話しやすく、後輩の僕たちから人気のあった金谷先輩は、レンタルビデオショップでアルバイトをしていた。

金谷先輩はバイトを始める前から映画、特に洋画に精通しており、その知識量と人当たりの良さを武器に、バイトの中で確実に地位を上げていったそうだ。そうやって金谷先輩がたどり着いたのがAV担当のポジションである。「なぜ地位を上げた結果がAV担当?」と思われるかもしれない。実際、当時の僕もそう思った。地位が上がったら売れ線の最新作とかを担当するんじゃないのか、と疑問を抱いたものである。

しかし、金谷先輩によると、メジャーな作品や最新作などは放って置いてもレンタルされるため、それこそ新人などに任せてしまっても特に問題がないらしい。

一方のAVコーナーは、内容がコアな上にバラエティに富んでいる。また、ほとんどの利用者が男性という不利な条件にも関わらず、AVのみでレンタルビデオ店の売り上げの数割を稼いでいるというから驚きだ。つまり、金谷先輩が登り詰めたAV担当の地位は、レンタルビデオショップカーストの最上位に位置するらしいのである。

金谷先輩いわく「俺ならポップだけでガン立ちさせられる。その切れ味は地域イチ。」だそうだ。すごい、まるでKATANAだ。

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KATANAを借りてからしばらく経った頃、日曜に休みが取れることになったためせっかくだからまたレンタルバイクを利用しようかと思い、レンタル819のページを覗いてみる。愛知県には前回利用した名駅店の他にも数店舗あるのだが、なんと刈谷店と三河店ではDUCATIのレンタルができるようだ。すごい。太っ腹だ。

既に前日の土曜だったため予約が取れるか不安であったが、早速の電話をしてなんとか三河店の予約を取り付けることができた。少し店舗が自宅から離れているが、そのまま三河方面を走れば問題ないだろう。

翌日、岡崎市にあるレンタル819三河店に車を走らせる。たどり着いたのは名駅店のようなレンタル専門の店舗ではなく、なんとDUCATI岡崎店であった。

(写真を撮り忘れたので公式ページから拝借。ごめんなさい。)

どうやら、DUCATIのディーラーがレンタル819に加盟しているということのようだ。そして、この日レンタルするのはこの車両。

DUCATIのsuper sport Sである。ご覧の通り、途中で雨に降られたためあまり写真をとることができなかったか、それでもこの格好良さは伝わるはずだ。

Lツインエンジンを積んだ細身の車体、エッジの立ったカウルからは有機的にさえ見える極太トラスフレームが覗き込む。DUCATIにとってはもはやお家芸のような手法だが、力学的な要素を外装デザインのひとつとして組み込んだこのスタイリングはやはり素晴らしい。道の駅でも際立つ存在感である。

super sportなんてたいそうな名前なので、バキバキのスポーツモデルなのかと思っていたのだが、どうやらこのモデルはそういったコンセプトではないみたいだ。跨ってみると、先日のKATANA程ではないものの、結構直立に近いポジションであることが分かる。

セパレートハンドルではあるものの、トップブリッジの上側に跳ね出したタイプを採用しているためハンドル位置は高めである。また、ステップもシート直下に設置されており、いわゆるバックステップ的なものではない。寝かせることを想定しているのか、あまり後ろに下げていない割に位置が高いので、結構窮屈な印象だ。足つきについても、シート幅がタイトなこともあり、両足べったりである。

エンジンをかけると、道の駅などで聞いたドッカンドッカンいうあのサウンドが鳴り響く。これだよ、これ。アクセルを回して走り出すと、「上しか使い物になりません」なエクステリアデザインとは裏腹に下からモリモリである。下から上まで満遍なく使える感じだ。(まあ、そんなに上までは回してないが。)

予想外の扱いやすさに少々拍子抜けしつつ、三河の山の方を目指して走っていく。ワインディングに入ると、軽量な車体がかなり効いており、よく言うヒラヒラ曲がるという感覚だ。これは楽しい。この軽快さとスレンダーさこそが、やはりVツインスポーツのあるべき姿である。

後から調べてみると乾燥重量は184kgで、これは僕のMoto Guzzi 1100 sportの220kg超の数字と比較して、40kg弱も軽量なことになる。道理で軽いわけである。というか、グッチが重すぎる。

前述したように、その後ゲリラ豪雨に襲われ、乗車時間が削られてしまったものの、DUCATI super sport Sは無茶苦茶扱いやすいマシンであった。ツーリングメインでときにはスポーティに楽しみたいという大多数のユーザーにマッチするのではないかと思う。軽快でトルクフルな扱いやすさからくる楽しさ、優れたデザインがもたらす所有感は、中型をすっ飛ばして最初のバイクとして選んでもまったく問題ないはずだ。

ただし、コストに関してはまったく優しくない。独身貴族で気長にローンを組める、家計の財布は俺が握っている、もしくは親が金持ちだ、等のライダーに購買層は限られてくるのかもしれない。

僕は今のところ乗り換えの予定はないが、購入に迷った場合は一度レンタルバイクを利用するのも、良い判断材料を与える一助になるだろう。伝聞と体験では、やはり得られる情報の密度が異なる。

様々なメーカの中でも一際独特な立ち位置を確立しているDUCATIは、コアなファンが多い印象もある。今回のレンタルでDUCATIにハマる理由、その片鱗を感じることができたように思う。

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コアなファンといえば、大学のある先輩のことを思い出す。金谷先輩である。レンタルビデオショップでAV担当に登り詰めた金谷先輩、おしゃべりな性格もあって、お客さんともよく情報交換をしていたそうだ。

映画やAVと関係のない趣味の話しなんかも普通にしていたそうで、金谷先輩とおしゃべりするのが半分目的、みたいな常連客もいたらしい。レンタルビデオショップの店員とカジュアルに会話をするイメージのなかった僕は驚くと同時に、金谷先輩の懐の深さに感心したものである。

そんな常連客の中でも、金谷先輩のコアなファンとも言える1人のおっさんがいたそうだ。聞くところによると、意気投合してバイト終わりで一緒に飲みに行くほど仲が良かったようだ。

ある年の2月のはじまりの季節、金谷先輩が冬の寒さを吹き飛ばすかの如く熱烈なポップをAVコーナーに設置していると、いつものようにコアなおっさんが暖簾を潜ってきた。コアなおっさんはここには書けないようなディープな作品を好んでレンタルしていたそうで、その日もディープな作品の良し悪しについて金谷さんと意見交換をしていたらしい。

いつもと違ったのは、コアなおっさんが帰り際、何かが入ったビニール袋を金谷先輩に渡したということだ。「いつもお世話にになってるから、そのお礼の差し入れ」ということらしい。さすが人望の厚い金谷さんである。

家に帰ってずっしりと重いビニール袋を開き、その中に入っていた包みを解くと、そこには太くて長いたいそう立派な恵方巻が入っていたそうな。

コアなおっさんの言った、いつもお世話になっている、とはどういう意味だったのだろうか。その日以来、コアなおっさんが金谷先輩のバイト先に現れることはなく、その真相を知る由はなくなってしまったそうだ。

これはあくまで僕の想像に過ぎないが、もしかするとコアなおっさんは、それまで見ているだけで、話をするだけで、それだけで良かったはずの金谷先輩のことが、どうしても欲しくなってしまったのではないだろうか。

願い事を叶えてくれるという恵方巻には、そんな願いがこっそりと込められていたのかもしれない。

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車やバイクのみならず、家具やファッションにいたる様々なものがレンタルできる時代になった。所有するということに意味を見出す価値観は、もはや前時代的なものになってきている。

それでも、僕たちライダーは安くはないコストをかけて気に入ったバイクを所有しようとする。ときには眺めて悦に浸り、育てるようにカスタムし、ブッ潰れるまで乗り回すのだ。

情熱を込めて作られたモノには、所有することでしか味わえないほど深い魅力が宿る。写真や動画で見てるだけでは想像すらつかない、レンタルで体験しただけでは物足りない、そんな引力とも呼べる何かが僕らを惹きつけて止まない。

ミニマリズムな生活を送る気取ったやつらにはきっと分からない、分かって欲しくもない。実物だけが放つ深淵な世界に、僕は今日も感動するのだ。

2020.09.01