残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

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フューエル・ワン

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本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない。

フランツ・カフカ

自分の価値観や景色を変えてしまう、そんな本に出会うことがある。きっとそれは人生の中でも数えるほどしかなくて、そんな瞬間に出会うために、僕たちは何度でもページをめくるのだろう。

 

◆◆◆

 

今年の冬は随分と寒い。僕の住む街も例年に比べて雪がよく降り、ツーリングやドライブにも気軽に出かけられない日が多い。

そんな日の僕は決まって読書をする。本はいつだって、さっきまで家の中にいたはずの僕を、知らない世界の過去と未来に連れ出してくれる。

雪の降る週末がしばらく続いて、家にストックしていた未読本が尽きてしまった。仕方がないので、ゴツいソールのブーツを履いて、近所の本屋に行くことにした。

これまでの価値観を変えてしまうような良書と巡り合うのは、インターネットよりも本屋であることが多い。amazonのレコメンドシステムはたしかに便利だけど、自分の興味の外側から接触してくるようなフィジカルな感覚はやはり捨てがたい。

静かな空間にインクと紙の匂いが立ち込める。所狭しと並ぶ本の外装は異なったデザインやテクスチャで僕の視界を一瞬で鮮やかに変える。

そんな中、ふと一冊の本が僕の目に留まった。まるで、僕に見つけられるのをそこでずっと待っていたかのように、その本はひっそりとたたずんでいた。

「ギャルズパラダイス 日本レースクイーン 大賞 特集」

これだよこれ、こんな本を待ってたんだよ。

なんとこの本、総勢100名のレースクイーンが紹介されている。まさか、こんな素敵な本が世の中に存在しているなんて。モータースポーツ観戦の必需品と言っても過言ではないかもしれない。まったく、これだから読書はやめられないぜ。

100名の紹介ページも、卒業式みたいな小さい写真ではなく、1人づつの全身写真が掲載されており、レースクイーンの皆さんの圧倒的なスタイルと可憐な衣装を堪能することができる。

最近のマイブームや好きな男性のタイプなんかに加え、なんと3サイズまで掲載されている。活字中毒の僕も唸る圧倒的情報量だ。

こうしてじっくりと見てみると、チームやスポンサーによって衣装にも色々な違いがあることが分かる。個人的にはWAKO'Sのエナメルっぽいテカリのある生地感が好みで、僕のフューエル・ワンも大暴れって感じである。

さらにこの本、付録でレースクイーンの写真入り日めくりカレンダーがついてくる。こちらはハサミ・パンチ等を使って自作するDIYスタイルを採用している。雨や雪の日の図画工作に持ってこいである。

弾ける笑顔がなんとも眩しい。毎朝、カレンダーをめくるたびに、僕のフューエル・ワンも大喜びするに違いない。

 

◆◆◆

 

若者の読書離れが叫ばれて久しい。

インターネットは断片的なテキストや画像と言った短い情報で世界を繋いだけれど、平面的に広がるばかりが世界ではなく、深く探究していく奥行きもあって然るべきだ。

まずは簡単なものからでもいい。なんなら、レースクイーンのスリーサイズくらいの情報しか読む部分がなくたって構わない。

いつか、あなたのうちなる凍ったフューエルワンを叩き割ってくれるような、そんな出逢いがきっとあるから。

ゴロゴロアンカーを自作した話

最近、実家に帰ると若い頃の母方の祖父に似てきたと言われる。昔の祖父を見たことないからピンとこないんだけど、小さい頃の僕はかなりのおじいちゃん子だったから、そう言われて悪い気はしない。

「ねえ、じいちゃん。どうしたらじいちゃんみたいにかっこよくなれるの?」

「なんだ、おれみたいになりたいのか。そうだなあ。正直に生きることだな。自分に対しても人に対しても。」

物知りな祖父は幼かった頃の僕に色々なことを教えてくれた。今思えば、子供に対して結構難しいことも言ってた気がする。

もう何年も前に祖父は亡くなったが、若い頃には今の僕みたいにバイクに乗っていたらしい。だけど、ある日盗まれてしまったらしく、それっきり乗らなくなってしまったそうだ。

そんな話もあって、僕がバイクを購入したときには盗難対策について真剣に考えた。

盗難対策として最も有効な手法の一つに地球ロックと呼ばれるものがある。ガレージや庭の土間床のコンクリートにアンカーを仕込んで、そこにバイクを繋ぎ止めるというものだ。

ただ、会社の寮に住んでいる僕には駐車場の床を一度破壊してアンカーを埋め込む訳にはいかない。そこで、地球ロックほどではないが、効果の大きい対策として以下のようなものを見つけた。

コンクリートの塊にアンカーを仕込んでそれにバイクを繋ぐという商品だ。プロの窃盗団に対しては効果は薄いかもしれないが、抑止力にはなるだろうし、何も対策を取らないよりずっと気持ちが楽になるはずだ。

ひとつ問題なのはその価格である。正直、バイクを買ったばかりで貯金を使い果たした僕には到底手が出せる代物ではなかった。

どうしたものかと悩んでいると、むかし祖父と一緒に祖父の家の玄関前に土間コンクリートを打設したことを思い出した。

「ねえ、じいちゃん。じいちゃんはなんで何でも自分で作ろうとするの?」

「おれの小さい頃には自分の欲しいものは自分で作るしかなかった。貧しかったからな。だけど、自分で作ることで覚えたことがいっぱいあるんだよ。」

買えないなら作ればいい。僕は、かつて祖父が教えてくれたコンクリートの作り方を思い出しながら、ゴロゴロアンカーを自作することにした。

目次

ゴロゴロアンカーの材料

まず最初にコンクリートを構成する材料は以下の4つである。
①セメントペースト
②細骨材(砂利)
③粗骨材(石ころ)
④水

ちなみに、コンクリートの構成要素から③の粗骨材を抜いたものが、モルタルと呼ばれるものになる。

①〜③はホームセンターで個別に入手することも可能だが、それらの配合のバランスが少し面倒である。最近では既に程よいバランスで混ぜ合わせた商品も売られているので、今回はコレを利用する。

①〜④の材料に加えると望ましいのが「鉄筋」である。鉄筋を仕込んだコンクリートはいわゆる「鉄筋コンクリート」と言われるもので、鉄とコンクリートが互いの弱点を補うことで強度やヒビ割れに対してより有利になるのである。

今回に関してはアンカーをコンクリートに定着させると言う目的にも一躍買ってくれる。

庭の土間床なんかにはメッシュ状に組まれた専用品があるが、加工性に優れた針金で代用することにした。

次に作る上で必要となる道具を揃える。
①型枠(ペール缶)
②コンクリートを練るための容器(デカイバケツ等)
③コンクリートを混ぜるスコップ
④表面を仕上げるコテ

コレらも全てホームセンターで入手可能だ。道具を含めても材料費は数千円程度で済んでおり、本物に比べてかなり経済的だ。

材料が揃ったら、さっそく作業スタートだ。

ゴロゴロアンカーの作り方

まずは針金を組む作業。均等に並べるのがベストだけど、意外と面倒でぐっちゃぐちゃになった。まあ、どうせ隠れるので問題じゃない。「細かいことは気にするな」じいちゃんもたしかそんなこと言ってたような気がする。

アンカーも針金にしっかりと緊結して、簡単に引き抜かないようにしておこう。

組んだ針金はペール缶に固定する。ペール缶と針金がくっつくとそこから錆が出やすくなるので3cm程度の離隔を取ると良いだろう。

次にコンクリートを練る作業だ。コンクリートが固まるのは化学反応なので、材料を均等に混ぜておく必要がある。

カイバケツでよく練ったコンクリートをペール缶の中に詰める。作業に夢中で写真を撮ってないんだけど、セメントが舞い散って周囲が灰色の地獄みたいになる。絶対に外でやるべきだ。

ペール缶に詰める時には、スコップや棒でよくつつくと上手く充填されるはずだ。

ペール缶いっぱいまでコンクリートを詰め込んだら、コテで表面を滑らかにする。これが結構難しい。1日も経てばガッチガチに固まる。

案の定、表面がザラザラになってしまった。もしも、じいちゃんに見せたら笑われてしまうかもしれない。それでも、盗難防止の役割は充分に果たすはずだ。

ここまでの一連の作業は本来外でやるべきである。だけど、会社の同僚にコンクリートを練っている姿を見られたら、きっと変なあだ名とかつけられるので、仕方なく自室で作業を実施した。

その選択が後に大きな事件を引き起こすことになるなんて、この時の僕は予想だにしなかったんだ。

ゴロゴロアンカーの運び方

ものを作るのに夢中で、部屋から運び出す手段を全く考えていなかった。僕は昔から思いつきで行動してしまうところがあるようだ。

僕の部屋からバイクの停めてある駐輪場に行くには、外部通路を通るのが最短ルート。自作のゴロゴロアンカーは約40kgと重い上にかなり持ちづらい形状なため、人のいない夜中を見計らって、ゴロゴロと転がして運ぶことにした。

通路に人影がないことを確認して、ゴロゴロアンカーの移動を始める。思ったよりイージーだ。

ところが、僕の目の前に階段が現れた。

ほんのちょっとした階段なんだけど、この時ばかりは僕の行手を阻む断崖絶壁のように思えたんだ。

一段ずつ、ゆっくり降ろしていくしかない。そうやって細心の注意を払って階段に差し掛かった次の瞬間だった。

コンクリートの塊が持つ位置エネルギーは僕のコントロールをいとも簡単に振り解き、階段を一気に転げ落ちていった。

・・・かなり大きな音を立ててしまった。

少しの間息を止めてじっとしていたが、誰も部屋から出てくる様子はない。とにかく、そのまま急いで駐車場まで転がして行って、なんとかたどり着くことができた。

外部階段破壊事件

翌日、会社に着いてしばらくすると、寮長の先輩社員からこんなメールが届いていた。

完全に僕が昨日コンクリートを落っことした階段である。どうやらあの後、外れてしまったようだ。これはヤバい。

次の日には、老朽化が原因だろうということになって、建物各所の劣化調査を業者に依頼する騒ぎにまで発展してしまった。

そうやって話が大きくなる中、僕は知らん顔をして、ほとぼりが早く冷めるのを祈っていた。しらばっくれようとしたんだ。

居心地の悪い嫌な感じがした。

暗い気分を振り払いたくてバイクに乗った。

何も考えずに何時間も走り続けた。

気が付くと、静岡と長野の県境の町まで来ていた。

昔、祖父が住んでいた家のある町だ。

今はもう誰も住んでいない家に着く。

玄関前のコンクリートはあの日のまま、まだひとつのひび割れも入っていなかった。

「じいちゃん久しぶり。おれも結構大人になったよ。若い時のじいちゃんに顔がそっくりらしいんだけど、どうかな?」

「・・・」

「今日はバイクで来たんだ。じいちゃんも昔乗ってたって言ってたよな。なんてバイクだったっけ?」

「・・・」

「最近さあ、昔教わったやり方でコンクリートを練ったんだよ。ほら、写真見てくれよ。まあ、じいちゃんよりは下手だけど、結構ちゃんとできてるだろ?」

「・・・」

「運んでる時に落っことしちゃってさ、寮の階段壊しちゃったんだ。ははは。笑えるだろ?」

「・・・」

「それで寮の人達に迷惑かけてんだけど、自分がやっちゃったって、言い出せずにいるんだ。」

「・・・」

「かっこ悪いよな。」

「・・・」

「じいちゃん、おれ大事な用事を思い出しちゃった。また来るから、だからその時は昔みたいに色々教えてくれよ。」

翌日、僕は朝一で寮長の先輩の席に向かった。

ビューティフルグッバイ

少し前にオートボーイスーパーというイカした名前のフィルムカメラをメルカリで購入した。ウィーンという巻き上げ音や、シューピーンというフラッシュのチャージ音が賑やかなカメラだ。

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フィルムカメラを購入しようと思ったきっかけは、秋の終わりに行ったキャンプツーリングの途中、iPhoneがバイクの振動でぶっ壊れた時に現地で調達した写ルンですが楽しかったから。オートボーイスーパーは、その名の通り自動でピント合わせを行ってくれることを売りにした簡単なカメラ。だけど、40mmF1.9の明るいレンズが付いていて、結構綺麗に写るそうな。(あんまりカメラのことは詳しくない。)

仕事のTODOが増えたせいか、僕の脳みそが少しずつ歳をとってきたせいか、若しくはその両方か、昔と比べて随分と色々なことを忘れてしまうようになった。昨日考えていたことも、さっき見た景色も、何年後かにはすっかりと忘れてしまうだろう。

それはとても勿体ないし、ちょっと寂しい。これまで、僕は日々の出来事を少し長い文章にまとめてから投稿してきたが、これからはもう少し手軽な記録も残していきたいなと思う。

◆◆◆

少し前になるが、オートボーイスーパーを持って、渥美半島にツーリングに行ってきた。愛知県に住むバイク乗りは、冬になると暖かくて凍結の心配の少ない知多半島渥美半島に走りに行く。

渥美半島はいつ行っても少し物足りないから、何が足りないのかを突き止めるために毎年行く。残念ながら今年も見つけることが出来なかったから、来年もまた行くことになるだろう。

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実はこれがSS900と行った最後のツーリング。ちょっと面白い車両がお世話になっているお店に入庫したので乗り換えることにした。

インプレと言うほど長く乗ってもいないが、SS900は重心の高さとLツインで前輪荷重が少ないせいなのだろうが、ちゃんと体重移動をしながら乗らないと不安になる感じ。僕の腕では大したことは言えないのだが、時々うまく曲がれると気持ちが良い。

そして、立ち上がりからのVツインのまさに地面を蹴るが如くの加速感は独特で、僕がDUCATIに対してイメージしていた乗り味そのものだった。

ポジションは噂通りきつく、(僕が乗っていたのはスペーサーが入る前のより前傾のきついモデル。)長く乗っていると体が疲れてくる。だけど、跨っただけでちょっとやる気にさせてくれるというか、乗り手を高揚させてくれる。

Vツインの不等間隔爆発と空冷の機械音、乾式クラッチの打刻音の組み合わせは唯一無二で、クラッチカバーをオープンタイプにして楽しんだりもさせてもらった。

半年ほどの付き合いの中で、納車時にトラブルがあった以外は全く故障もなく、DUCATIは壊れやすいという先入観を覆してくれた。たぶん、前のオーナーがちゃんとメンテしていたんだと思う。ちょこちょこと手も入っていたし。

ピエール・テルブランチがデザインしたこのSSは、トラスフレームの見せ方が格好いい。フロント側のトラス下弦材の隠し具合と、リア側でピッチやせいを変えながら跳ね上がっていく様が、トラスを有機的に見せてくれている。バイクに関する力学はよく分からないが、数あるDUCATIのトラスフレームの中でも、一番色っぽいんじゃないだろうか。

セカンドバイクということもあり、今回軽やかに乗り換えを決めたが、お別れとなると寂しいものである。最後にバイク王で写真を撮った。

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バイク王の帰り道は最寄りの駅まで歩いて帰る。あまり使ったことのない駅はとても静かで、持ちづらいヘルメットに少し苛つきながら、もう少し騒がしければよかったのになと、自分勝手なことを思った。

Lツインの振動でカメラのイカれたiPhoneにイヤホンを挿して、最近お気に入りの曲を聴きながら、なかなかこない電車を待った。

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モータシティ・ハママツへの帰省ツーリング

緊急事態宣言があけたこともあり、しばらく帰っていなかった地元の浜松に帰省することにした。

名古屋から浜松へは名古屋豊橋間を結ぶ国道23号線名豊道路から国道1号線を経由すれば2時間程度で到着する。

久しぶりの浜松なので、ツーリングがてら少し寄り道をしていくことにした。まずは浜松市天竜区の入り口である二俣町を目指す。

◆◆◆本田宗一郎ものづくり伝承館

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最初の立ち寄り地は前々から来てみたかった本田技研の創業者、本田宗一郎に関する資料を展示する施設である。小ぶりな施設だが、本田宗一郎の生い立ちに関する様々な展示やホンダの古いバイクの展示を見学することができる。

場所は本田宗一郎の生まれ育った浜松市天竜区二俣町にあって、レトロな建物は旧二俣町役場を改装したものになっているという。本田宗一郎という人物とともに、彼の育ったこの地域の歴史を、なんとかして残そうとしているのかもしれない。

本田宗一郎に関する年表や映像記録を見れば、小学生の理科の授業で自作の蒸気機関を披露するなどの、とんでもないエピソードに驚愕することだろう。

この日は秋の企画展ということで、ホンダのGPマシンNSR500とRC181を見ることができた。スピードだけを追求した先に出来上がった機械が、こんなにも美しく感じるのは一体何故なのだろうか。

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伝承館のすぐ近くには、映画シン・エヴァンゲリオンで第3村として登場したことで一躍有名になった天竜二俣駅がある。

久しぶりに立ち寄ってみたのだが、二俣からさらに北の方ににあった祖父母の家に行く途中、この駅で親戚をピックアップして行くのが盆や正月の恒例行事だったことを思い出した。

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扇型車庫や転車台を有する車両基地を見学するツアーも毎日開催されているようなので、時間を合わせれば映画で見たあの不思議な光景を目の当たりにすることができる。(僕は残念ながら少し時間が間に合わなかった。)

たくさんの列車がこの場所に行き着き、この場所で向きを変え、この場所から再出発してきた。とうの昔に定年を迎えているであろう老人の駅員が、ゆるキャンのラッピングが施された列車を見てはしゃぐ子どもたちを静かに見守っていた。

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◆◆◆スズキ自動車本社

二俣からさらに北へ向かって行けば、ワインディングも楽しめる山道に入っていくのだが、今日は実家のある南へとバイクを走らせる。

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知っている人も多いと思うが、浜松市はホンダの他にもヤマハ、スズキの創業の地として知られるモーターシティだ。スズキの本社は僕の実家からほど近くの可美という場所にあって、朝や夕方には青色の制服を着たスズキの社員の人達を沢山見かけたものである。

本社のすぐ近くにはスズキ歴史館という施設がある。見学していこうと思っていたのだが、予約制になっているようで、残念ながら正面にディスプレイされていたGSX-RRを眺めるだけになってしまった。

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これは浜松のプチ情報だが、スズキ本社のある可美地区の隣の篠原町は異常に鈴木姓が多い。僕は野球部に所属していた中学生の頃、何度か篠原中と対戦したことがあるのだが、篠原中はスタメンの約2/3が鈴木、リリーフに出てきたピッチャーも鈴木という完全なる鈴木過多状態であった。どの鈴木が盗塁が上手くてどの鈴木が流し打ちが得意なのか、走攻守に錯乱を招く強敵であった。

ちなみに、浜松市に隣接する磐田市まで足を伸ばせば、ヤマハコミュニケーションプラザというヤマハ発動機の企業博物館を見学することもできる。バイクメーカーの博物館をはしごできるのはモーターシティ浜松ならではだろう。

◆◆◆キングスランド跡地

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これはスズキ本社からもほど近いただのauショップだ。ここをはじめて見た人には、確かにそう映るだろう。だけど、この近くで育った僕と同世代の全ての人にとって、ここは特別な場所だった。

ここにはかつてキングスランドという大きなおもちゃ屋さんがあったのだ。ミニ四駆零戦デジモンゾイドも、僕の心を鷲掴みにしたおもちゃの数々は、全部キングスランドで買ってもらったのだ。(まあ、大抵は買ってもらえずに見るだけなんだけど。)

お城のような外観、煌びやかな店内、店の奥のディスプレイラックに飾られたカッコいい模型達。全て跡形もなく消えてしまったけど、まだ微かに頭の中に映像の断片を映し出すことができる。

敷地の隣には当時と同じくケンタッキーフライドチキンが今もまだ残っている。キングスランドに寄った帰り、運が良ければフライドチキンを手に入れることだってできたのだ。

僕にとってのサンタクロースのイメージがカーネルサンダースとごちゃ混ぜになってしまったのは、きっとこの場所のせいに違いない。

◆◆◆クシタニ本店

色んな場所で立ち止まっているうちに、あたりはすっかり暗くなってしまった。今年ももう随分と日が短くなった。

さて、浜松はバイクメーカーのみならず、バイクウェアメーカーのクシタニの創業地でもある。最近そのクシタニ本店がリニューアルオープンしたと聞き、この機会に訪ねてみることにした。

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マットブラックの角波鋼板と軒裏にあしらわれた木によるシンプルな外観は、海外のガレージかウェアハウスをモチーフにしているのだろうか。なかなかカッコいい感じだ。

建物に設置された伝統の富士山マーク以外に装飾はなく、オープンしたてにも関わらず余計な立て看板やフラッグなども立っていない。この潔さは、過度なアピールを必要としない商品自体の質の高さへの自信のあらわれから来ているのかもしれない。

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一歩店内に足を踏み入れれば、コンテナ風の内壁、創業当時を再現した店舗など、いわゆるハウスインハウス的な手法で広い空間に様々な場所を作り出しており、単調になりがちな箱物に思わず散策したくなるような仕掛けが施されていると気が付く。ブラックを基調とした細部の印象は、全国各地のクシタニパフォーマンスストアの延長にあるようなイメージだ。

店内の商品の陳列は少し疎な感じがしたが、昨今のパンデミックの影響によるソーシャルディスタンスへの配慮なのだろう。高い階高と直天仕上げが相まって開放感や空気の大きさを感じることができるのも、これからの店舗には必要な要素なのかもしれない。

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今回のリニューアルの目玉のひとつが、店の奥に再現された創業当時の店舗の姿である。精巧さと少しばかりのあざとさが相まって、誰かの夢の中に間違って入り込んでしまったような感覚を覚える。

おそらく、創業時の想いや思想を伝えるためなの試みなのだろう。文章とかそういったストレートに伝わりやすい道具を用いればいいところを、クシタニはわざわざそれらを育んだ場所ごと錬成してしまったのだ。物体を媒介した一見すると回りくどいこの伝達手法は、ものづくりに拘り続けた歴史が導き出した答えなのかもしれない。

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◆◆◆

むかし来た場所を訪れると当時の記憶が強制的にダウンロードされることがある。場所を示す座標の四次元以上のどこかには、そこを訪れた人の記憶を保存する領域があるのかもしれない。この街が保存している記憶をかき集めれてくれば、きっと十八歳の僕のクローンができるに違いない。

場所ごと保存するなんていう大それたことは、小学生の時に蒸気機関が何なのかさえ知らなかった僕にはできそうにない。それでも、今朝ベランダから見た景色がちょっとだけ綺麗だったこと、さっき食べた夕食の味が薄かったこと、誰かに使った言葉に後悔したこと、すぐに忘れてしまわないように、なんとか記録に残そうと足掻いてみる。いつか僕に似た誰かがいたことを、僕を知らない誰かに思い出してもらえるように。

Lantern Riders "22/5/8更新"

友人が運営しているLantern Ridersというキャンプツーリングに関するWebメディアで文章を書かせてもらいました。

在宅ワークに飽きた方、外出自粛の休日で時間を持て余している方、暇のお供に是非どうぞ。

「僕が愛用するキャンプツーリングにもおすすめなカッコいいバイクウェア」

https://lantern-riders.com/gadjet-info/camptouring_motorcyclewear/

※2021/11/12追記
「【フィールドレポート/奥飛騨温泉郷オートキャンプ場】『写ルンです』といくキャンプツーリング」

https://lantern-riders.com/camp-location/fieldreport-okuhidaonsenkyo/

※2022/1/31追記
「オイルドコットンを着てキャンプツーリングに出掛けよう!」

https://lantern-riders.com/gadjet-info/oildcotton-and-ramen/

※2022/5/8追記
「呪具っぽいキャンプ道具で領域展開してみた」

https://lantern-riders.com/gadjet-info/ryoiki-tenkai/

Lantern Ridersはまだまだできたばかりのサイトですが、バイクで利用できるキャンプ場の情報や、キャンプツーリングにまつわるあれこれが掲載されています。

https://lantern-riders.com

増車の科学

スマホの調子がどうも悪い。バイクに乗るときにはスマホをカーナビ代わりに使っている僕にとっては死活問題である。

バッテリーの持ちが致命的に落ちている。yahooカーナビを使用していると1時間ほどでバッテリーがなくなってしまい、目的地に辿り着けないのだ。古い型なのでバッテリー交換にもお金がかかる上、性能も見劣りするようになってきたため、この機会に機種変更をすることにした。

というわけで、休日を利用して最寄りのソフトバンクショップに足を運ぶ。ソフトバンクショップはいい。何がいいって、店員さんが清潔感があるうえにべっぴんさんが多いのである。ソフトバンクショップもののAVがあれば一本欲しいくらいである。

そんなことを考えながら、最新のスマートフォンの説明を聞いていると、何やらスマホと一緒にタブレットを契約するとなんやかんやで安くなる、という奇怪なプランの説明をしているではないか。

「絶対に騙されている」と思いつつも、加速し続ける情報化社会に追随していく必要性を日頃から強く感じているのも事実である。それに加えておすすめされているタブレットLenovoだ。LenovoといえばMotoGPDUCATIワークスのメインスポンサーなので、直線での通信のトップスピードがヤマハより10km/h以上速いはずである。

そういった様々な要素を勘案して、僕はスマホの機種変更に加えて、タブレットを増機することにしたのだ。決して、ソフトバンクショップの店員さんが重森さと美に似ていて可愛かったからとか、そういう理由ではないのである。

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今回、久しぶりに携帯電話の機種変更にいったわけだが、ひとつ驚いた点がある。それはデータの移行についてである。

僕の記憶の中ではデータの移行といえば、お店にある専用の機械に古い携帯電話と新しい携帯電話を繋いでやってもらっていたはずだ。

しかしながら、この数年間のスマートフォンの発達とともに、データ移行も専用の機械なしで、自宅でケーブルさえも繋がずにできるようになっていたのである。

これには本当に驚かされた。何故なら、128GBのうち約96GBをDMMアプリでダウンロードしたヌルヌルテカテカな動画で占めているスマートフォンの中身をソフトバンクショップの店員さんに見られることを危惧した僕は、ショップの待ち時間の間に泣く泣くDMMアプリを削除していたのだ。

データの移行はどうするのかと質問する僕に、「データの移行は手順書に従って自宅でやってくださいね。」と、重森さと美似の店員さんが優しく説明してくれた。

ソフトバンクショップの外に出ると、まだ少し冷たい四月の雨が降り始めていた。

雨に散りゆく桜の淡い色彩は、僕のスマホから消えていった沢山のピンク色のギガバイトが具象したかように儚く、春の終わりを僕に予感させたのだ。

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◆◆◆

それは先日、滋賀にキャンプに出かけた時のことだった。僕のサイトの隣には世にも珍しいカップルのライダーが来ていた。さらに珍しいことにそのカップルはMoto GuzziのV7とDUCATIのMONSTERに乗っていたのである。

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(レンタルしたスクランブラーではしゃいでいる僕の奥に、ちょうどV7とMONSTERが写り込んでいる。)

仲良く並んだ真っ赤なイタリアンを眺めながら、静かに時間を過ごすその二人は、なんだかとても幸せそうに見えたのである。何故、幸せそうに見えたのか。揺れる焚き火を見ながら、僕は漠然と考えを巡らせた。

オフィスでどれだけ頭を抱えても出てこなかったアイデアが、風呂に浸かっているときや寝る前の布団の中で唐突に思い浮かぶことがある。それはきっと、職場でのストレスからの解放が僕らのシナプスに良い刺激を与えるからに違いない。

自然に囲まれたいつもより少し緩い時間軸。キャンプをしているときの僕の脳みそは完全に日常から解き放たれたと言っても過言ではない。誰かがキーボードを叩く音も、ぶっ壊れるまで印刷を続ける複合機の機械音も、やたらと声のデカい隣の部門の課長もここにはない。

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解放された僕の思考がたった一つの冴えた結論を導き出すのには、そう時間はかからなかった。

「GUZZIとDUCATIの二台があれば幸せになれるに違いない。」

◆◆◆

バイクの二台持ちなんてご近所さんから白い目で見られてしまう、と心配する人も多いだろう。だけど安心して欲しい。

増車といっても、四発一台とVツイン二台は下式に示す仮想仕事の原理が成り立つため、エネルギー領域では等価と言えるのである。すなわち、増車したと見せかけて、実は国産四発とやっと釣り合いの取れた平衡状態になるわけである。

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さて、増車に対する障壁が取り除かれたところで、僕が選んだ車両がこいつである。

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DUCATI SS900ieというバイクである。不等間隔爆発のドコドコ感と細くて軽い車体を追求したVツインスポーツだ。

SS900ieはdesmodueと呼ばれる空冷2バルブの伝統的なエンジンを積んでいる。現行車種ではスクランブラーシリーズに受け継がれており、パワーこそないものの、アイドリングで回しているだけで気分が高揚してくるような、Vツインならではのドコドコ感が得られるエンジンだ。

デザインは999やMH900eで有名なピエール・テルブランチ氏によるもの。個人的にはとてもカッコいいと思うのだが、ヌルヌルテカテカしたカウリングが受けなかったらしく、中古車の相場がかなり低いのも決め手のひとつである。

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まだあまり多く走らせることができていないが、低いハンドルとコンパクトなポジションが無駄にやる気にさせてくれる。ポジションがきついのと、ハンドルの切角が少なめなため、極低速だととても曲がりにくいが、ワインディングではうまくいけばストンと曲がってくれてとても気持ちがいい。

ある程度高い回転数でも、アクセルを捻るとドカドカと唸るエンジンの音と鼓動は、ひとつひとつのシリンダーが大きい大排気量Vツインの特権ではないだろうか。

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とまあ、ここまでいいことばかりを述べたが、納車時はトラブルに見舞われ散々であった。実は今回初めて遠隔地から購入したのだが、運送拠点で受け取ったときにはセルが回らず、おしがけもうまくいかずに納車後即レッカーという事態になってしまった。

幸い、セルスターターリレーが高圧洗浄か何かの影響で死んでいたことがすぐにわかり、2、3日で走れるようになったものの、漫画ばくおん!!のこのシーンを思い出したのはいうまでもない。

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ばくおん!!より引用)

古いイタリアンなんて乗るもんじゃないという人もいるだろう。だけど知ってほしい。「恋は長所を見ること、愛は短所を許すこと」*1 なのだ。

実を言えば、カスタムが長引いているGUZZIが帰ってくるまでの繋ぎとして購入に踏み切った部分もあるのだが、思った通り楽しくて格好良いバイクなので、このまま二台体制というのも悪くないかもしれない。

スマホタブレットの二台持ちなんて無駄じゃないのかと思っていたが、LenovoタブレットはhuluでMotoGPを観るときにはいつも使っているし、容量はとあるアプリで既にいっぱいだ。

かくして、「GUZZIとDUCATIの二台があれば幸せになれるに違いない。」という仮説は無事に証明されつつある。

あの時見かけた幸せな光景と少しだけ差分がある気がするが、きっと何かの勘違いだろう。

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*1:ポエムばかりを発信しているTwitterのアカウントで見かけた最新のポエム。