残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

HY戦争の歴史を訪ねて〜バイクのふるさと浜松2022〜

1979年。ヤマハ発動機本田技研への宣戦布告により静岡県浜松市で通称HY戦争(エイチワイせんそう)と呼ばれる戦いが勃発した。

1983年2月のヤマハによる事実上の敗北宣言まで戦線は拡大を続け、内地の主戦場となった浜松は総人口の約半分を失った。浜松市民は、自らの行為に恐怖した。

HY戦争の終戦後も鈴鹿戦役や第一次ネオ・ヤマハ抗争、第二次ネオ・ヤマハ抗争と呼ばれる小規模な勢力争いが続いたものの、JAMA(日本自動車工業会)の主導による復興計画の甲斐もあり、今では争いの傷跡はほとんど残っていない。2018年にはホンダとヤマハによるスクーター部門の提携が始まり、かつて浜松で二社による熾烈な戦いがあったことを知らない人も多いと聞く。

浜松では毎年、HY戦争で犠牲になった尊い命を弔う「バイクのふるさと浜松」というイベントを開催している。イベント名が少々ポップだが、厳粛なイベントであり、全国から毎年数多くの追悼者が集まる。

実を言うと、浜松は僕が生まれてから18歳までを過ごした街でもある。幸い、僕の住んでいた地域は中立を保っていた独立小国家スズキの近隣に位置していたため被害は少なかったようだが、当時を知る父や母はHY戦争のことを語りたがらなかった。

大学に行くために浜松を出た僕は、いつしかバイクの免許を取得した。今思えば、浜松に生まれた宿命みたいなものだったのかもしれない。

「バイクのふるさと浜松」は、コロナ禍に突入して以来、開催中止になったりオンラインイベントという形をとっていたのだが、2022年は2019年以来久しぶりにリアルでのイベントが開催されることとなった。

もちろん僕もこのイベントに参加することにした。父や母が話さなかった、この街の歴史を知るために。そう、これはバイクと僕のふるさと、浜松の物語だ。

バイクのふるさと浜松2022

トライアルデモンストレーション

今年の会場である浜松オートレース場にやってきた。例年、浜松市総合産業展示館で開催されていたのだが、今年はちょっと趣向を変えたようだ。

浜松オートレース場は最近改修されたそうで、スタンド周りがとても綺麗に整備されている。小さいオーバルコースはサーキットと違ってコースの全貌を見ることができる。

会場では早速トライアルのデモンストレーションが行われていた。HY戦争末期には現在の浜松市天竜区において、トライアル兵達によるゲリラ戦が繰り広げられたと言われているので、たぶんその関係でやっているんだと思う。

トライアルは2019年のイベントや鈴鹿8耐のイベントステージでも観戦したが、まるで手足のように自由自在にバイクを操るそのパフォーマンスは何度見ても見応えがある。

バイク用品等販売コーナー

例年、メーカーアパレルやなんだかよく分からないバイクグッズの売っているブースが多数出店される。スズキの湯呑みを買おうか散々悩んだ挙句に結局買わないのは、もはやこのイベントのルーティーンと言っていいだろう。

以前の話になってしまうが、2019年のイベントでは浜松に本社を置くクシタニが出店していたことを思い出す。そのクシタニもHY戦争の最中には、ホンダ・ヤマハ両陣営に皮革製戦闘服を供給し、戦いの裏で暗躍していたいう噂がある。

クシタニブースでサンプル品として安く購入できたスポーツタイプのコンテンドジャケットがこちらである。

僕にとって初めてのクシタニ製品であり、ライディング時の動き易さに感動したことを思い出す。北海道ツーリングにも着て行って、運動性はもちろんのことベンチレーション機能や撥水性の高い生地にも随分助けられたものである。今でも中間期には着用しているお気に入りの一品だ。

コンテンドジャケットは2023年現在もラインナップされている定番モデルであるが、そもそもコンテンドっていったいどんな意味なんだろうか。調べてみたところ、contendは「戦う、争う」という意味を持っている言葉であることが分かった。そう、クシタニはこのジャケットをバイクのふるさと浜松で販売することで、逆説的に追悼の意を込めていたのである。

異種100mレース

僕が訪れた日にはオートレーサー、8耐マシン、トライアルマシンによる異種100mレースが開催された。全く異なるレギュレーションで作られたマシンでドラッグレースをするという面白い企画である。

やっぱり8耐マシンだろうとか、この距離ならトライアルじゃないかとか、ここはホームコースのオートレーサーだよとか、観客席ではみんなの予想や期待が飛び交う。いつものモータースポーツとちょっと違ったワクワク感だ。

また同じようなことをやるかもしれないので結果は伏せておくが・・・、僕の予想を裏切る結果となり会場は大いに盛り上がった。

展示車両

このイベントの目玉の一つが、各メーカーの新車やレース車両、謎の旧車といった様々なマシンの展示である。

新車には自由に跨ることもできるので、買い替えなどを検討している人にもうってつけなのではないだろうか。バイクのふるさと浜松は例年子供連れの家族が多く来ており、子供たちがバイクに乗って記念撮影をしていたりして微笑ましい。



旧車というかヴィンテージなバイクをこんなにたくさん見られることもなかなかない。旧車の展示部屋では、おそらく展示車両のオーナーであろうお爺さんがハーモニカで生BGMを演奏しており、なんだかヤバい。

ちなみに、浜松では原付もしくはバイク全般を「ぽんぽん」と呼ぶことがある。小さい子どもが自動車のことをブーブーと呼ぶのと同じようなシステムだ。実際、僕の祖父母もバイクのことをぽんぽんと言っていたことを思い出す。

今回は会場がオートレース場ということもあり、オートレースの競走車もみることができた。メグロトライアンフの古い競走車のエンジンもいいが、現行のスズキセアもなかなかメカニカルで格好いい。



そしてやはり、僕が最も楽しみにしていたのがロードレーサーである。ホンダ・ヤマハ・スズキを生み出した浜松ならではの充実度。この3メーカーのMotoGPマシンが並ぶイベントってなかなかないんじゃなかろうか。

ここ最近のMotpGPは、第二次ネオ・ヤマハ抗争で破竹の活躍を見せたバレンティーノ・ロッシの引退、独立小国家スズキの突然の撤退、イタリアメーカーの躍進など、日本勢にはなかなか苦しい状況となっているが、2023年の大逆転劇を期待したい。



8耐に参戦していた浜松のプライベートチームのマシンも多く展示されている。間近で見る耐久レーサーの生々しさに大興奮。巨大な耐久仕様タンクはやはり格好いい。

こちらはIRF(磐田レーシングファミリー)とアズールレーンというゲームとのコラボマシンである。アズールレーンのことはよく分からないものの、2022年の8耐ヤマハワークス不在の中、ヤマハファンの注目を大いに集めていたマシンだ。

レースクイーンさん(尊みを感じて桜井さん)の目線をバッチリもらっているが、これは偶然そうなってしまったわけで、僕としてはマシンの全景を写そうとしていただけなので、決して浅はかな勘違いをしないでほしい。

もうひとつのHY戦争

目的としていたHY戦争の歴史はさっぱり学ぶことができなかったが、Wikipediaにだいたいのことは書いてあるし、とにかく楽しむことができたから良しとしよう。2022年は例年と比べて特に運営側の気合が入っていたように感じられ、実に満足度が高いイベントであった。

僕が紹介した以外にも様々な企画が行われているので、バイクに興味があれば行ってみて損はないはずだ。仮面ライダーショーなどの子ども向けの企画もいくつも用意されているので、家族で訪れるのもオススメである。(しかも入場料は無料だ。)かくいう僕も、子どもの頃に父と母と弟と一緒に訪れた記憶がうっすらと残っている。

さて、せっかく浜松までやってきたので、ちょっと実家にでも顔を出すことにしよう。オートレース場から実家のあるスズキの領土付近までは、バイクに乗ればあっという間に辿り着く距離だ。

尊みを感じて桜井さんの肌色に想いを馳せているうちに実家に到着すると、なんだか物々しい雰囲気が漂っている。こういう時は大体あれである。父(ヒサノブ)と母(ヨシコ)が喧嘩しているのである。通算何度目なのだろうか、もうひとつのHY戦争の勃発である。「だら」とか「だに」とか、格好悪い方言を駆使して互いを罵り合っている。

子供の頃は嫌いだったこの喧嘩も言葉も、もはや懐かしさすら覚える。とはいえ、過熱しすぎて冷戦状態に入る前にほどほどのところで仲裁に入っておくのが良さそうだ。

高校生の頃の僕は、浜松から出たくてしょうがなかった。この街には何もない、本気でそう思っていたのだ。バイクのふるさと浜松は、そんな僕に故郷にある豊かな文化を思い出させてくれた。

・・・さて、この後に伏線回収などをしつつ、いい感じのことを言って締めようと思っていたのだが、特に思いつかないまま約1年が経過してしまったため、今年のイベント情報を掲載しておくことにする。みんな、10月は浜松にあつまれ!!
=====================
・会場:浜松オートレース場
・開催日:2023年10月14日(土)15日(日)
=====================