残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

僕が愛用するキャンプツーリングにもおすすめなカッコいいバイクウェア

(この記事は2021年8月14日にLantern Ridersというキャンプツーリングに関するwebサイトに投稿した内容を加筆修正したものである。)

キャンプツーリングにいくとき、あなたは何を着ていくだろうか?

いつも使っているバイクウェアでずっと過ごす人、アウトドア系のウェアを着て行く人、道中はバイクウェアで現地についてから動きやすい服に着替えるという人、きっと様々だろう。

僕はというとバイク向けに作られたいわゆるバイクウェアを着ていく派である。泊りがけで行くキャンプツーリングはいつもより遠くに出向くことが多く、走行時間が結構長くなることもあれば、高速道路を利用する機会も多い。そんなときにはやはり、ライディングに適したウェアを着たいものである。また、極力荷物を減らしたいキャンプツーリングにおいて、余分な着替えを持っていきたくないというのも、僕がバイクウェアで過ごす理由の一つだ。

しかしながら、バキバキのレザージャケットやスポーティなウェアはキャンプ場でくつろぐには残念ながら適しておらず、キャンプを演出する能力は低いと言わざるを得ない。

そこで僕は、バイクウェアはバイクウェアでもキャンプにも合うようなものを選んで着ていくようにしている。最近はバイクウェアも多様化しており、アウトドアなテイストを取り入れたものだったり、旅先でのアクティビティにもシームレスに使っていけるようなカジュアルさのあるものも登場している。スポーツ系のウェアには及ばないまでもライディングに不自由はなく、かつキャンプ場でも寛げてキャンプを演出してくれる。

今日は僕がキャンプツーリングに出掛けるときに愛用しているバイクウェアを一挙に紹介していこうと思う。

ジャケット編

Fuel Bespoke Motorcycles – Greasy Jacket

Fuel Bespoke Motorcyclesのグレイシージャケットだ。一見ただのデニムジャケットに見えるが、生地自体にケブラー繊維という引張強度の強い繊維が混ぜられていることに加え、肩・肘・背中にプロテクターを装着できる正真正銘のバイクウェアである。

じっくり見ていくと、首の動きを邪魔しないスタンドカラーや可動域を広げてくれる前面のプリーツ、各所に配されたポケット、前傾を考慮して長めに設定された背面の着丈など、ライディングジャケットとワークウェアのディテールがミックスされながらデザインされていることが分かる。

アウトドアというよりは、古いワークウェアをモチーフにしたジャケットであるが、このデニムの泥臭い雰囲気はキャンプにも相性がよいのではないだろうか。

聞いたことのない人も多いかもしれないが、Fuel Bespoke Motorcyclesはスペインの結構新しいバイクウェアブランドだ。僕が所有しているワークウェアっぽいジャケットのほかにも、ラリー競技にインスパイアを受けたウェアを多く展開しており、キャンプとの相性はかなり高いと言える。

“Leave The Main Road”
Greasy Jacketの内側に大きくあしらわれたこのメッセージは、大きな道ばかりが旅路ではない、本流から外れていこう、というこのブランドのコンセプトに違いない。

国内ではmotorimodaさんが取り扱っているが、残念ながら実店舗数が少ないため、僕の場合はmotorimodaのネットショップにて購入した。

参考までに、身長173cm、体重69kg、僕の戦うバディにはご覧のようにMサイズがちょうど良い感じだ。

motorimodaさんではヨーロッパのバイクウェアを多く輸入販売しており、国内ではここでしか手に入らないものもたくさんある。数年前、名古屋店が撤退してしまったことが実に悔やまれる。

ROARS ORIGINAL – タクティカルジャケット

次に紹介するのはROARS ORIGINALのタクティカルジャケットだ。

ROARS ORIGINALは東京でカッコいいライダースジャケットやバイクウェアを作っているブランドだ。街に映えるようなデザインが多い中、このタクティカルジャケットはフードや合計10個もあるポケット、部分的に使われているオイルドコットンなどがアウトドアな雰囲気を感じさせてくれる。

めちゃくちゃカッコいいジャケットなのだが、残念ながらプロテクターが入れられない仕様になっている。そこで僕は、バイクに乗るときには着脱式の袖を取り外して、カドヤさんのライダースジャケットと重ねて使っている。これがなかなか雰囲気が良いのだ。

余っているポケットに袖だけ入れて持っていけば、キャンプ地ではライダースを脱いで、動きやすいジャケットに簡単に着替えることも可能である。

ROARS ORIGINALは東京にしか店舗がないので、僕のような地方在住者の場合はネットショップに頼らざるを得ない。

サイズ感としては、身長173cm、体重69kg、僕の戦うバディにはMサイズがジャストサイズだ。

今回の着用写真のポージングには人気格闘ゲームストリートファイターⅡ(ストツー)のキャラクターたちの必殺技を採用させてもらった。オジサンがただ服を着ている写真をネットの海に投下するのが怖かったので、ストツーの力を借りていると言ったほうが正確かもしれない。

◆◆◆

ストツーを僕に教えてくれたのは従兄弟のマサユキ君だった。歳の離れた従兄弟のマサユキ君は幼いころの僕とたくさん遊んでくれて、僕にとってはヒーローのような存在だった。ゾイドを教えてくれたのも、ソニック・ザ・ヘッジホッグを教えてくれたのもマサユキ君なのだ。

今思えば、僕がバイクに乗るようになったきっかけも、マサユキ君が昔バイクに乗っていた姿に憧れたからかもしれない。

「バイクがあればどこにでも行けて、自由になれるんだよ」

車格の大きなオフロード系のバイクを僕に見せびらかしながらマサユキ君は言った。当時は何を言っているのかよく分からなかったが、実際バイクに乗るようになってみるとマサユキ君の気持ちがよく分かる気がする。

ROARS ORIGINAL – COOL JACKET for sqeed

同じくROARS ORIGINALの夏用ジャケットCOOL JACKET for speedである。

僕が持っているのはカーキ色で、バイク用っぽくない垢抜けた色味がとても気に入っている。

ライディングジャケットの夏物と言えば、メッシュジャケットを連想する人が多いと思うが、こちらはクールマックスという吸水速乾性に優れた高機能化学繊維を採用したジャケットになっている。

実際に使用している感覚としては、メッシュ素材ほど風が通っていく清涼感はないが、走行時には充分に涼しい。いかにもバイク用ですといった雰囲気のメッシュジャケットに比べて、バイクを降りてからの使い勝手がかなりよい。

前面には大きなポケットが4つ付いている。口の大きな仕様なのでグローブのままでも出し入れがしやすい。

また、このジャケットは先程のタクティカルジャケットと異なり、プロテクターを入れられるポケットが内側に用意されている。肩・肘・背中に加えて、なんと胸にもポケットが用意されている上に、社外製の胸部プロテクターを装着するための面ファスナーも用意されている。

サイズ感としては、173cm、69kg、僕の戦うバディにはMサイズがちょうどいい。

ただし、プロテクターを付けた状態でサマーソルトキックをやってみたところ、若干肩幅や袖丈が足りなくなる感じがするので、もしかするとLサイズでもよかったかもしれない。

ここまで紹介してきたウェアがそうであるように、僕は基本的にバイクに乗るときにはプロテクターを入れられるものを着るようにしている。それもたぶん、マサユキ君のことがあったからだろうと思う。

◆◆◆

ある日、部活を終えて家に帰ると母が「マサユキ君が事故に遭った」と言って、驚く僕を乗せて病院に車を走らせた。マサユキ君と血液型の同じ父は、輸血のために先に病院に向かったという。

一時停止を無視して飛び出してきた軽トラを避けるために、バイクに乗ったマサユキ君は激しく転倒した。幸い命に別状はなかったものの、マサユキ君は傷だらけになり、足を骨折してしまった。乗っていたバイクももちろん廃車だ。

バイクに乗ることは自分自身や道路を使ういろんな人に対して責任を負うことになる。ギプスを付けたマサユキ君の姿を思い出して、僕はプロテクターを付けるのだ。

パンツ編

続いてはパンツ編である。普段はズボンと言っている僕であるが、今日はちょっと勇気を出してパンツと言ってみることにした。

クシタニ – エクスプローラーライドジーンズ

夏以外の季節のキャンプにはクシタニのエクスプローラーライドジーンズを着用している。

有名な製品なので、知っている人も多いと思うが、一見普通のブラックジーンズに見えるこのズボンはなんと革でできているのだ。顔料ではなく染料で仕上げられた落ち着いた色味と布を模した型押しがジーンズっぽい見た目を作り出している。

革パンはテキスタイルのズボンに比べて圧倒的にニーグリップがしやすくなるため、操作性の向上に加えて、長距離走行時の疲労が少ない。耐摩耗性が高いということは、ライダーに安心感をもたらしてくれる効果もある。

さらにキャンプ向きと言える機能が撥水性である。クシタニさんはオーバーテクノロジーにより革自体に撥水性を持たせており、ちょっとやそっとの雨では水が浸透してこないのである。これを履いていれば、キャンプに向かう道中やキャンプ地において、変わりやすい山の天気に翻弄されることもないのだ。

ツーリングパンツとして完璧に近いこの製品であるが、難点を挙げるとすればその価格だろう。信じてもらえないかもしれないが、税込みで6万円を超えてくる。まあ、それだけの価値のある製品と言えばそうなのだが。

サイズ感としては、173cm、69kg、僕の戦うバディには30インチがちょうど良い。一般的なストレートジーンズといった感じの形をしており、リーバイスの505に似たような感じだ。もう少し裾に向かって細くなってくれたほうが個人的には好みである。

◆◆◆

僕が高校生だったとき、ブランカ使いのマサユキ君が失踪したという連絡が叔母からあった。失踪と言っても、電話は通じるようなのだが、どうやら居場所を教えてくれないらしい。

頭の良かったマサユキ君は地元の優良企業に就職していたが、数日前に突然仕事を辞めて、一人暮らしをしていたアパートから姿を消してしまったようだ。

何か事件に巻き込まれたんじゃないかと皆で心配したが、マサユキ君は「ただ自由に生きたいだけ」と電話で叔母に言ったそうだ。仕事とかプライベートな人間関係とか、いろんなことが嫌になってしまったらしい。

僕の記憶の中にあるマサユキ君と失踪したマサユキ君のイメージがどうしても合致せず、混乱したことを思い出す。

Max Fritz – ダブルニーストレッチジーンズ

もうひとつ愛用しているのがマックスフリッツのジーンズである。ワークウェアによくあるダブルニージーンズを細身にして、さらにストレッチ性のある生地を用いることでライディング向けにした製品である。

膝に付いているジッパーを開ければプロテクターを入れることもできる作りになっているのも大きな特徴の一つである。

サイズ感としては、173cm、69kg、僕の戦うバディには48サイズがちょうど良い。

◆◆◆

マサユキ君が失踪してから半年ほど経った頃だろうか、叔母の家と僕ら家族の家に、大量の魚介類が届いた。依頼主の欄には丁寧な字でマサユキ君の名前が書かれていた。

行方知れずとなっていたマサユキ君、なんと東北にあるどこか遠くの港町で漁師になっていたのだ。「マサユキはサンマを食べるのが綺麗だったからな」と、関係あるのかないのかよく分からないことを父が言った。

それからは季節ごとに旬の魚介類がマサユキ君から届くようになった。母は「捌くのが大変だ」と愚痴をこぼしていたが、僕はマサユキ君が漁獲した魚が届くのをいつも楽しみにしていた。父は「あいつはサンマを食べるのが綺麗だった」と魚介類が届くたびにいつも同じ話をした。

僕の知らない道だけど、マサユキ君は確かに戦っている。マサユキ君が送ってくれた魚は、スーパ-で買った魚よりもずいぶんと美味しい気がした。

Max Fritzの補足情報

マックスフリッツは今回紹介したダブルニージーンズ以外にもワークウェアやアウトドアのテイストを取り入れたウェアを数多く販売しており、キャンパーはもちろんクラシックなバイクに乗っているライダーにもおすすめである。僕も冬用のウェアを2点使わせてもらっている。デニムの生地はちょっと縦落ち感が強すぎてケバい感じもするが、モトパンツ的なデザインが気に入っている。

max fritz femmeという名前で女性向けのバイクウェアも多く展開しているようなので、全国の黒ギャルや白ギャルにも是非取り入れてもらいたいところである。北海道から関西まで現時点で7店舗展開しているほか、ナップスなどの量販店でも見かけることがあるので、試着できる機会も多いと思う。

Leave The Main Road

マサユキ君の失踪後、一度だけ電話で直接話をしたことがある。

東北での生活はどうだいと聞くと、「好き勝手にに生きるのも、結構大変だよ」とマサユキ君は言った。その声は笑っていたけれど、僕にはなんだか疲れているように聞こえた。

あんなに沢山届いていた魚介類も、いつの頃からかぱたりと届かなくなってしまった。叔母によれば、マサユキ君は漁師も辞めてしまったようで、今はもうどこで何をしているのか、誰にも分からなくなってしまった。

“Leave The Main Road”

本来の道から外れて生きること。一見自由に見えるその生き方には、僕には分からない責任がつきまとうのかも知れない。

ストツーと同い年の僕は、今年でマサユキ君が失踪したときと同じ年齢になった。サマーソルトキックを格好良く決めるには、心も体も少し硬くなり過ぎてしまったみたいだ。

マサユキ君がそうであったように、僕も何かを意識することもなく普通にサラリーマンになっていて、ストツーほど派手じゃないけど、毎日いろんなものと戦っている。

日々の仕事や人間関係に辟易して、何もかも捨ておき、遠くに逃げ出したくなる時もある。だけどそんな時、マサユキ君の電話での乾いた言葉を思い出す。

失踪する代わりに僕はバイクに乗り、キャンプに行く。自由によく似た感覚で、自分を紛らわそうとする。

ストツーのキャラたちは、いったい何の為に戦っていたのだろうか。ひょっとしたら、マサユキ君ならその答えを知っているかもしれない。

いつか叔母に教えてもらったマサユキ君の電話番号にかけてみる。

マサユキ君じゃない機械の声の女が出てきて、この電話番号は現在使われていないと僕に言った。

「僕はもう少しこっちの道で戦ってみるよ。」

機械の女にそう言って、僕は静かに電話を切った。