残業レコード

あるサラリーマンライダーの栄光と苦悩の記録

ニースライダーのダメージ加工により膝擦れる奴感を演出して道の駅にいるライバル達に差をつけよう

〜レザーパンツとニースライダー〜

バイクに乗るときはバイク用ジーンズを履いて乗ることが多い。ジーンズはどんな服装にも合わせ易くて格好いい。さらに、バイク用の製品は立体裁断のおかげでバイクの操作を妨げないし、膝や腰にプロテクターを入れることだってできる。

だけど、高速道路なんかを走っていると、「もしもズッコケたら僕の下半身削れてズルむけになるんじゃないか」と不安になることがある。下品な皆さんが勘違いしないように断っておくと、これはちんちんの話ではない。

プロテクターは衝撃を吸収してくれても、路面との摩擦からは身を守ってくれない。なんというか、僕はもっとこう包まれている安心感が欲しい。どうやら僕は体だけじゃなく心の方も仮性包茎になってしまったみたいだ。おっと、これはちんちんの話。

そうなると、選択肢として上がってくるのはレザーパンツになる。レザーパンツってかなりイカつい印象があるし、結構コストがかかるしで、実はこれまで避けてきていたのだが、中古で程度の良いものを見つけることができたので、思い切って購入してみた。

いざレザーパンツを履いて試しに最寄りの道の駅まで走ってみると、安心感もさることながら、体をシートやタンクにホールドする効果がとても高いことが分かる。革が車体にへばりついてくれるおかげで、ニーグリップにかける力は少なく済み、カーブなどで尻をずらしても少ない面積で体を固定してくれて安定感がある。

ズボンはウェアの中でも、体とバイクをつなぐ役割を担っていて、ジャケット以上に操作性に与える影響が大きいということに今更ながら気付かされた。感覚的にはグローブに近いかもしれない。

さて、レザーパンツといえばニースライダー(もしくはバンクセンサー)が取り付いているものも多い。釈迦に説法になってしまうが、ニースライダーはハングオンしていったときに膝が路面に直接擦れるのを避けると同時に、車体の傾斜角を測るという役割を持っている。

このニースライダー、怖くてバイクをあまり寝かせられない僕のようなライダーはいつまでもキレイなままだ。一方、道の駅に出没する走り屋さんたちのニースライダーは傷だらけで、勲章のようにさえ見える。なんだか負けた感がすごい。

そんな敗北感を勝手に噛み締めながら、道の駅を歩いていると、ダメージジーンズを履いたいい感じのギャルを見かけた。

「ギャルと道の駅ってギャップが最高だぜ。じゅる。」とか思ってギャルの脚を凝視していると、僕の脳裏に一つのアイデアが舞い降りてきた。

「ニースライダーもダメージ加工してしまえばいいんじゃないか!?」

新しいアイデアというものはいつだって異分野からやってくるものである。実際に膝が擦れるか擦れないかなんて、些細な問題だったんだ。

しかしながら、ニースライダーがどんなダメージを受けるものなのかがよく分からない。何故なら僕は膝を擦らないからだ。現物をみてじっくり確認したいところだが、道の駅でたむろしている走り屋さんに話しかける勇気は持ち合わせていない。

走り屋さんに話しかけずに済む方法がないものか。経験豊富そうなギャルを横目に見ながら思索していると、またしても僕の脳裏にアイデアが舞い降りた。

「使い込まれたニースライダーさえ見られれば済むはず」

ということで、せっかく道の駅まで来たが、近くの峠道には寄らずに、中古カー用品バイク用品専門店のアップガレージ名古屋店にバイクを走らせる。もちろん道中、膝はまったく擦らない。

〜調査編〜

店内に入ると結構な数の革ツナギが置いてある。10着以上はありそうな勢いだ。そして中には期待通りかなりのダメージを受けたものもラインナップされている。世の中には果敢なライダーがたくさんいるものである。

調査を進めていく中でニースライダーの材料にはいくつかのバリエーションがあることが分かった。具体的には以下の3種類だ。

材質は耐久性と擦った時のフィーリングに違いをもたらす。一般的には金属>プラスチック>革の順に耐久性が低くなっていき、伝わってくるフィーリングは滑らかになる。(予想)

ライダー達は、峠で膝を擦り続け、何度も何度もスライダーを交換していく。そうした過程を経ることで、いつかきっと自分の求める理想の材質に辿り着くのだ。そう、それは恋と似ている。

ただし、今回はダメージ加工が目的であり、公道で膝をすることは求めていないため、加工のし易い樹脂製の一択で問題ない。耐久性もフィーリングも糞食らえである。

☆ポイント①:材質は樹脂製を選ぶべし。

削れ方としては、面的に擦れているものと隅部から削れて行っているものが見受けられる。そして、どのスライダーにも共通して言えるのは、傷口が黒くなっているということである。おそらくアスファルトに擦れたときに色移りしているのだろう。この黒色を再現することで、生々しさを演出できるはずだ。

☆ポイント②:傷口は黒くするべし。

スライダーの観察を続けているとカラーリングも様々なものがあることに気付く。最も多いのはイメージ通りの黒で、白もそこそこ多い。赤とか黄色とかの目立つ色のものもあってなんだか可愛い。

通常であればウェアの色に合わせるのが基本になるはずだが、ダメージ加工には明るい色を選んで欲しい。これは黒などの暗い色のものに加工をしても加工が目立ちにくいためである。カラフルなものはウェアとの相性があるため、白系のものを選んでおけば間違いないだろう。

☆ポイント③:色は白系を選ぶべし。

ブランドはパンツのメーカーに合わせておくのが無難だろう。あまりメーカーロゴが目立たないパンツを所有している場合は、レーシング色の強いブランドのスライダーを選ぶことで、さらなる玄人感を演出できるだろう。具体的にはダイネーゼ 、アルパインスター 、クシタニ、HYODあたりが狙いどころだ。

☆ポイント④:ブランドはパンツに合わせるのが基本、レーシング色の強いブランドも応用編としてあり。

調査はこんなところで充分だろう。期待していた以上の成果を得ることができた。せっかく来たので店内を物色していると、ちょうど新古品でクシタニのニースライダーが売っていた。

ベースカラーが黒でさっそくポイント③を無視しているが、ロゴは白いし、ポイント①と④はクリアしているので、これで試してみよう。

今回、ニースライダーを初めて単品で購入したわけだが、すっごく気分がいい。「いやあ、すぐすり減っちゃってさぁ」とか店員にわざわざ言いたくなっちゃう。危うくTwitterでも「前のスライダーはよく滑ってフィーリングは良かったんだけど、さすがに耐久性が低かったので、次は評判のいいクシタニのスライダーを購入。今度は1シーズンくらいは持ってくれよ〜。」とか空虚な報告するところだった。

このように、ニースライダー購入という行為は、ライダーのテンションを上げるポテンシャルを秘めている。仕事やプライベートで悩みがある人は、精神の滋養強壮剤としてバイク用品店でニースライダーを購入してみるのもいいかもしれない。

〜加工編〜

加工方法はいたってシンプル。そう、実際にアスファルトに擦り付けるのである。膝を擦れないならば手で擦り付けてしまえばいいのだ。

走り屋さんの膝になったイメージで下向きに力をかけつつスピーディにニースライダーを擦る。

この作業をひたすら繰り返す。樹脂製といってもさすがはクシタニ、かなり高密度なタイプのようで、なかなか硬くて結構疲れちゃう。こんな硬いものをすり減らすなんて、走り屋の皆さんもよくやるよ。

そんなこんなで完成したダメージニースライダーがこちらである。

予想以上に硬くて苦戦したが、走り屋さんが峠を2周したくらいの感じにはなった。ちなみに、黒色が思ったように色移りしなかったので油性ボールペンで色を足すという職人技も取り入れている。

あんまりやり過ぎるとボロが出そうなので、まずはこのぐらいのダメージ感が狙いどころだろう。月に一回くらいの頻度で同様の加工を加えていくことで、時間軸でダメージが育っていくリアル感を演出することも可能だ。

コイツをレザーパンツ に取り付けて道の駅に行けば、きっとダメージジーンズのギャルも振り向いてくれるに違いない。

◆◆◆

こうして僕はまた新しいハッタリを手に入れた。言ったもん勝ちの世の中だ。小さな自分を大きく見せよう。嘘で塗り固めた膝が僕を笑う。この分厚い嘘のかたまりは、いったい僕の何を守ってくれるんだろうか。

~2022.5.8追記 さらなるダメージを求めて~

ニースライダーにダメージ加工を施してから2年くらいが経過しただろうか。いまだに僕は膝を全く擦らずに毎日を過ごしている。いつの頃からか、道の駅で知り合ったライダーたちからも、疑念の視線が僕の膝に集まっているのを感じるようになった。

「おいおい、あいつのニースライダー、まったくダメージが進行していないぜ。」

立ちゴケで擦っただけなんじゃなくって?」

そんな心無い声が聞こえてくるような気がする。

ここらで一発テコ入れをしておく必要がありそうである。そんなわけで、ダメージ加工のためのニューアイテムを調達してきた。

BOSHのディスクグラインダーである。金属をも断ち切るこの圧倒的なパワーでねじ伏せてしまおう。わざわざアスファルトに擦り付けるなんて時代遅れだ。

このディスクグラインダーによりさらなるダメージ加工を施した逸品がこちらである。

勢いあまってシャンクスみたいな傷が入ってしまった。さながら膝擦り界の四皇ってところである。いったいどこで擦ればこのようになるのか?と聞かれた場合にはちょっとばかし説明が苦しいものの、この深い傷を見れば、たいていのライダーは尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。

 

※ディスクグラインダーはかなりのハイパワーなので、加工の際には十分に気を付けてほしい。